みんなの七夕



●宮野家の七夕

「結。短冊は書けたのか?」
「父さん。いいえ何て書いたらよいのか迷ってしまって。」

真剣に願い事を考える結の姿は子供そのもので微笑ましい姿だった。

「ゆっくり考えて一つに決めろよ。
紬は書けたのか?」

「ええ。」

書き終えた短冊を快に見せながら紬は微笑んだ。

「紬は昔から早いな。悩まないのか?」
「願いを一つ選ぶなら私にはこれしかありませんから。
そういえば、あなたは良く悩んでいたわね。」
「そうだったか?」
「ええ、凄く悩んでなかなか決まらなかったわ。
でも一度これと決めると絶対に変えないのよね。」

紬は楽しそうに言った。
快は少し気恥ずかしい感じがして頭をかいた。
二人の目線は自然の息子の結に向いた。

「あなたにそっくりよ。結のあの姿。」

二人は悩む結を優しく見守った。


●瀬戸口家の七夕

仁は執務室の戸がノックされたため
書き終わったばかりの短冊を引き出しに閉まった。

「兄さんいる?」
「円、施設内でその呼び方はやめろといっているだろう。」

口うるさい兄のお小言に円は短くため息を漏らした。

「瀬戸口補佐官。
少しお時間を頂きたいのですが宜しいでしょうか?」
「何のようだ。」
「はい。七夕の―――あぁもう普通でいいでしょ!
短冊書けた?って聞きに来ただけ。」

すぐに戻ってしまった円の口調に仁は短くため息を漏らした。

「円は書いたのか?」
「私はまだ。何にしようか考え中、これといって思いつかないのよね。
というか、答えになっていません。
書けたのかまだなのかはっきりお答えいただけませんか?」

仁は誤魔化してしまおうか迷ったが、誤魔化しが通じる相手とも
思えないので正直に答えることにした。

「書いた。」
「先に言っておくが内容を言う気はない。」

円が内容を聞きだそうとする前に仁は言った。

「ケチっ!でも良いわ。私も決まったから。
それでは、失礼致しました。」

そう言うと円は仁の執務室を後にした。
あっさりと引き下がった円の様子に仁は苦笑いを浮かべた。

「これは心を読まれたかもしれないな。」


●伊藤と黒田の七夕

伊藤は書類に走らせていたペンを止めると
近くで書類の確認をしている黒田に声をかけた。

「黒田。あんた今日何の日か知ってますか?」
「興味がありません。
―――それと手を動かしてください。」

冷たく返す黒田に伊藤はつまらなそうな顔をした。

「今日は七夕なんですよ。織女と牽牛が一年に一度―――」
「伊藤さん。」

黒田は伊藤の言葉を止めた。

「織女と牽牛はどちらも七夕を楽しみにして
真面目に働いているそうですよ。
伊藤さんも七夕を楽しみたいなら普段真面目に働いたら如何ですか?」
「―――言いますねぇ。」

伊藤の表情は苦笑いに変わった。
伊藤は再びペンを動かし始めた。

「黒田は逢いたい人居ないんですか?」

伊藤は手を動かしながら黒田に言った。

「いません。」

黒田も書類を確認しながら答える。

「さびしい奴ですねぇ。
その歳で会いたい人の一人も居ないなんて―――
まぁでもそのお陰でこうして仕事を手伝って貰えてるって
所もありますねぇ。」

伊藤は黒田の冷たい返答にため息を漏らし
黒田は伊藤の手が、良く回る口ぐらい動いてくれたらと思った。

「いつも顔を合わせているのに今更会いたいも無いでしょう。」

ぼそりと漏らされた黒田の一言に伊藤は再び手を止め
人の悪い笑みを浮かべた。

「―――手を動かしてください。」
「はいはい、失礼しました。
七夕の短冊、あんたもあたしも書く様な柄じゃありませんが
書いてみますかねぇ。」

伊藤の手の動きが少しだけ早くなった。
馬に蹴られたくない事もあるが書類とにらめっこよりも
ずっと楽しそうだと伊藤は思ったからだ。


●特別分隊の七夕

特別分隊の待機室で三條は短冊を前に悩んでいた。
願い事は沢山あるがどれを書いたらよいのか迷っていた。

「自分では叶えられ無そうな願いを書いたら良いと思いますよ。」
「山縣。本当に人の心読むのやめろ。」
「すみません。顔に書いてあったもので。」

山縣は笑顔でさらりと言った。
その様子に三條は言葉を失った。

別の場所では大隈が短冊を前に悩んでいた。
すでに書き終わった松方と西園寺は大隈が書き終えるのを待っていた。
西園寺は松方に話しかけた。

「松方大尉はどんな願いを書かれたのですか?」
「俺のは願いと言うより誓い―――かな。見るか?」

松方は自分の書いた短冊を西園寺に差し出した。

「よろしのですか?では自分のもどうぞ、っと言っても
大した願いでは無いのですが。」

松方と西園寺は互いの短冊を交換した。

「凄く西園寺少尉らしいと思う。」
「そうですか?願いと言うか必ずなります。
松方大尉のは本当に誓いですね。」

松方と西園寺は再び大隈に目を移した。
まだ悩んでいる大隈に西園寺が声をかける。

「大隈〜。いい加減決めなよ。男らしくないよ!」
「決めた。今決めた!
西園寺の今の一言で決めた。絶対叶えてやる。
松方大尉お待たせしてしまい申し訳ありませんでした!」
「構わない。
―――笹のところに行こうかもう短冊を飾っている頃だろうから。」



国主である快が用意させた笹には皆の願いが掛けられた。

「皆が幸せであれますように」宮野快

「皆が元気でいられますように」宮野紬

「皆で仲良く暮らせますように」宮野結

「円に良い相手が見つかりますように」瀬戸口仁

「兄さんに良い相手が見つかりますように」瀬戸口円

「守れますように」伊藤新

「無茶をするな」黒田真

「俸給が上がりますように」三條忠

「修繕費が下がりますように」山縣智

「笑顔がたくさん見られますように」松方望

「馬ともっと仲良く慣れますように」西園寺孝

「西園寺に勝てますように」大隈力





山国の人々の七夕の様子を書いてみました。
伊藤さんと黒田さんはお願い事するイメージがあまり無いので悩みました
黒田さんのはお願いではないような気がします…
大隈君のお願い事叶えるの難しそうです(笑)
ここまで読んで頂きありがとうございます。(2009.07.06)


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