肝試し



この日の特別分隊の仕事は軍の資料室の整理だった。
軍の資料室には、機密性の高い資料も存在する事もこの仕事が
特別分隊に回ってきた理由の一つだ。

特別分隊の面々は先ほどから、数人に分かれて資料の山と格闘している。

大隈と、西園寺の2人は資料の余りの多さと、資料室の暑くこもった空気に
苛立ち始めていた。

「暑い、何でこんなに暑いんだよ!」

大隈はついに堪えきれなくなり、隣で作業をしている西園寺に愚痴り始めた。

「夏が近いからじゃない?」

西園寺は面倒くさそうに答えた。

「暑い〜なんかこう涼しくなる方法とか無いのかよ。」
「そんな方法あったら、もう試してるよ。
口動かしてないで手も動かしてよ。」

西園寺は、口ばかり動かしている大隈を見て不満そうに言った。
すると、2人の愚痴を聞きつけたのか、山縣と三條が話しかけてきた。

「それなら良い方法がありますよ。」

山縣が言うとそれを肯定するように三條が言った。

「一発で涼しくなるな。」

二人の上官は、楽しそうな表情をしている。

「西園寺、なんかいやな予感がしないか。」
「うん、怖いね。」

楽しそうにしている二人に関わるとろくなことが無い。と思いながらも
上官の話を無視するわけにもいかないのでおとなしくその"一発で涼しくなる方法"
を聞くことにした。
話を聞き、いやな予感が当たっていたことを知る二人。

「山縣がせっかく教えてやったんだ、もちろん試してくるよな?」
「三條中佐、それを聞くのは愚問というものでしょう。
そうですよね、大隈少尉と西園寺少尉」

質問というよりは念押しのようなその言葉に、愚痴ったことを後悔したが
もう後の祭り、後悔先に立たずである。

大隈と西園寺は“一発で涼しくなる方法”を試しに行く羽目になった。

2人は資料室内で、目的の人物が一人で作業をしているのを見つけた。

「黒田司令官。」

西園寺は勇気を出して声を掛けた。
黒田は声に答えて、いったん作業を中止した。

「何だ、用件なら早く言え。」

黒田も暑いのか、頭には手ぬぐいを巻いている。
こう言う時、いつもなら黒田の隣にいる松方が助け船を出し
話しかけやすい空気を作ってくれるのだが、残念ながら今ここには居ない。
西園寺は、大隈に早くしろと眼で訴えた。

「失礼します。」

大隈はそう言うと同時に黒田の後ろに回り膝を曲げ、自分の膝で
黒田の膝の裏を押した。
黒田は、いきなり膝が曲がったためバランスを崩し、整理中の資料の山を
崩してしまった。

「…一体これは何のまねだ?」

いきなりの2人の行動に驚いたとは言え、あっさり後ろをとられてしまった黒田は
苛立っていた。ただでさえ資料の多さと暑さに苛立っていたため
黒田の表情はかなり厳しいものになっていた。

大隈と西園寺の2人はお互いの顔を見あわせるだけで何も言えなくなっていた。
暑さのせいだけでない、いやな汗が流れ落ちる。
しかし、ここで上官二人の名を出せばどうなるか分からない。
話しても話さなくても困ったことになる。

そんな二人をじっと見て何か考えていた黒田だったが、
何を思いついたのか、黒田の目が細まり口角が少し上がった。

「大隈少尉と西園寺少尉。先ほどからずいぶんと汗をかいているようだな。
…そうか、原因はこの暑い室温にあるようだな。こう暑くては
汗をかくのも仕方が無い。二人には特別に下着一枚になる許可を与えよう。」

まさか、そんな事を言われるとは思っても見なかった二人は、
驚きで動けなかった。

「どうした?遠慮は要らない。
脱げ…ただし靴は履いておけ足を怪我すると困るだろう?」

2人は驚きながらも、弾かれたように行動を開始した。

「軍服は預かっておいてやろう。日が沈んで涼しくなったら取りに来い。
大切な部下に風邪でもひかれては大変だからな。分かったら持ち場に戻れ。」

2人は、何とも情けない気持ちになりながら、とぼとぼと元いた場所に向かった。

元いた場所に戻ると、明るい表情の三條と、驚いた表情の山縣が迎えてくれた。
そこで2人は、自分たちが賭のネタにされていたことを知るのである。
もう二度と、この2人の上官の耳に入る範囲で愚痴を言わないようにしようと
2人が誓ったのは言うまでもない。


まず最初にすみません。日記で次のお話は夏祭りのお話にすると言っておきながら、なぜか夏祭りのお話の前にこちらが先に
出来てしまいました。ここ数日のあまりの暑さについこちらのお話が先に進んでしまいました。
夏祭りのお話も書いておりますので、もう少しお待ちいただければと思います。
さて今回のお話ですが、エリート少尉2人のお話です。なんだか2人が情けなくなってしまっていますね。
黒田さんが意地悪です…。私の中で、大隈君と西園寺君は真面目でとても素直な良い子達です。不幸な役回りでゴメンよ。
三條さんと山縣さんは、特別分隊のトラブルメーカー的な存在ですね。
この四人はギャグ担当っぽくなっています(笑)読んでいただきありがとうございます(2006.07.15)

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