代表



初空城の北側に軍の軍馬育成の施設がある。
その施設の馬場では2組の人馬がこれから行われる競争に向け
体をほぐしていた。

鹿毛の美しい馬体をした牡馬に騎乗しているのは西園寺
青毛の雄々しい馬体をした牡馬に騎乗しているのが大隈
二人は普段は同期と言うこともあり仲が良いのだが
今日は二人の間に緊張した空気が流れている。

二人にとってこれから行われる競争は大事な一戦だからである。
この競争に勝った方が今度行われる競技会の特別分隊代表になるからだ。

「西園寺。今度は負けない。」

昨年の競技会の代表は西園寺だった。大隈は静かに、だがはっきりと言った。

「大隈。僕達は勝つよ。」

西園寺も同じように返す。

二人はそれだけ言葉を交わすと、またそれぞれに体をほぐし始めた。

「大隈少尉、西園寺少尉。走路に移れ、始めるぞ。」

黒田から二人を呼ぶ声がかかり走路に移る。

二人がスタート地点に着くと二枚の紙が渡される。
一枚は簡単な経路図。もう一枚は適当な文字しか書かれていない紙だが
二人はそれを大事にしまう。その白い紙は仮想の伝令所だからだ。

スタートの旗が振られ2組の人馬は加速し始める。
最初の飛越障害を目指す。
走路が砂地で力のある馬の方が有利なのか、大隈が先行する。
普通は砂地の競争では相手に前を走られると不利になる、
飛んでくる砂を嫌って馬が走る気をなくしてしまうことがあるからだ。
しかし、二人の騎乗している馬は軍馬である。
砂でも泥でも怯むことは無い。

「やっぱり直線の勝負では分が悪いね。」

西園寺はすぐに経路図を頭の中に描くと勝負どころを探す
大隈が不得手で自分達が有利になれる場所を。

「とにかく先行して貯金を稼がないとな。」

大隈の頭にもまた経路図が描かれている。
自分が不得手としている障害までにいかに先行していられるか

「勝負所はスラロームだね。」
それまでに離されずに付いて行ければ、西園寺は思う。

「スラロームまでが勝負だ。」
それまでに差を広げられれば、大隈は思う。

二組の人馬はそれぞれの思惑を抱え走る。




スラロームに大隈が差し掛かった時2組の間はスタートした頃よりも
広がっていた。
大隈は「今日は勝った」と思った。




「言っただろ、僕達は負けないって。」

結果は西園寺の勝ちだった。スラロームに入った後そこまで飛ばしてきた
大隈はその疲れと元から不得手としていた事もあり、西園寺に追いつかれてしまった。
同時にゴールした二人の判定は仮想の伝令書の状態によって判定された。
懐の奥に入れられていた大隈の紙は汗で文字が滲んでしまっていた。
西園寺の紙はきちんと布で挟んであった為ほとんど滲んでいなかった。

「くそー。何で毎回毎回、西園寺には勝てないんだよ!」
「大隈は騎座が安定してないんだよ。あと力み過ぎ。」
だからスラロームが不得手なんだよ、練習不足なんじゃない?そう楽しそうに笑う西園寺と
それを聞きさらに悔しがった大隈が馬に乗ったまま追いかけっこを始めてしまった。

「大隈少尉、西園寺少尉。二人とも体力が余っているようだな。」

そう黒田に言われ二人は走路の片付けを命じられてしまった。



何時も不幸な目にあっている大隈君と西園寺君が活躍する話を書こうと思ったのですが
ついつい最後は不幸な感じにしてしまいます。ごめんよ。
リヤコさんリクエストありがとうございました。(2008.07.31)


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